てるる詩の木工房History/沿革


注文家具工房からのスタート~竪琴との出会い

てるる詩の木工房は当初注文家具の木工房「木の工房杢陽」としてスタートを切りました。

2年間かけて自らも建設に携わり、木工機械を揃え、完成した工房で工房開きを行いました。

2002(H14)年1月12日のことです。

スタート時期は建設費もかさみ、大変な時期が続いていました。

そんな時、初めて竪琴と出会ったのです。「はじまりの物語」へ

工房開きの日にお配りした記念品(小抽斗)と一緒添えたカード。今も変わらぬ思いです。

特注家具の仕事

工房開きの直前に取材に来ていただきました。

(琉球新報社週刊レキオ・2021(H13)年10月11日掲載)


復元の仕事へ

いつか楽器を作りたい・・・

そんな思いを温めながらも注文家具や特注の内装工事の仕事を行っていました。

その当時は螺旋階段の手すり、アーチの架かった舟形天井のチャペル、リゾートホテルの凝った内装など

特殊な仕事が多く子どもたちを寝かせてから夜納品に行ったこともありました。

特注の仕事を請け負う中で担当の方から「こんなのできませんか?」と御神輿の仕事や文化財復元の仕事を請けるようになっていきました。

また、地域の自治体から獅子頭の製作依頼も受けるようになりました。

杢陽の仕事へ


てるる詩の木(うたのき)工房へ

休日や朝早くの時間を使い、仕事の合間を縫って少しずつ楽器の試作・研究を続けてきました。

 

■2002(H14)年 コンサートで竪琴の音色に触れ竪琴を作ることを決意。

■2003(H15)年 沖縄県産の相思樹で制作した工房初めての竪琴が完成。「ことのは」と名付ける。    

はじめて作ったペンタトニックライアー「ことのは」

 

伸びゆく葉っぱのイメージで現在とは少し違うデザインです。

 

その年おこなわれた第31回沖縄の産業まつり発明工夫展意匠の部で竪琴『ことのは』優秀賞をいただきました。

■2004(H16)年 ことのはの販売を始める。

■2006(H18)年  第1回うるま市産業まつり出品。沖縄市工芸公募展佳作。本格的な大型竪琴の試作を始める。

■2007(H19)年 大型ソプラノライアー41弦(柿の木)が完成する。更に試作・研究を重ねる。当初アルトライアーとして制作。弦製作の技術が追い付かずソプラノライアーとして完成させた。

心に浮かぶ楽器

私たちが初めて出会ったライアーはドイツのゲルトナー工房で制作されたものでした。

当時は日本で竪琴を制作している工房は無く、映画「千と千尋の神隠し」木村弓さんがライアーで弾き語りする主題歌を歌ったことから少しずつライアーを知る人が増えている状況でした。

音は大変素晴らしかったのですが、その形は心に浮かぶ竪琴ではありませんでした。

その後ドイツの神父である制作するグーベルライアーと出会った瞬間とても共感し、一瞬にして作る姿や工程がが目に浮かびました。

古代の音を追い求め、同じ感性を持った制作者として彼をリスペクトしています。

が、制作に関しては真似をするのではなく独自の工夫を加えました。

誰に竪琴の製作方法を習ったわけでもないので試行錯誤の連続でした。

丸みを帯びたアーチトップ、両側の渦巻のわらび手、音に関わるサドルやブリッジ、ナットなど、そして大切な内部構造は高良のインスピレーションを基に生み出されたものです。

後に工房を訪れたスウェーデンのライア―制作者S.A氏は「もしグーベルが生きていたらこの楽器の誕生を喜んだであろう」と高良に伝えてほしい、と帰路に語ったそうです。


完成した大型ライアー第一号。

イメージに浮かぶ楽器をこの時ばかりは2週間と猛スピードで作成。

地元ラジオ局RBCさんのラジオカーレポートで紹介していただきました。

■2008(H20)年 30弦「あやはべる」モデル研究・開発をおこない完成(2オクターヴの音域。主に初心者・子ども向け)※現在は制作しておりません。

41弦「てるる」モデル研究・開発をおこない完成(3オクターヴ以上の音域をもちプロユース、演奏会用)

私たちが「わらび手」と呼ぶてるる詩の木工房の楽器の特徴でもある上部の成形。

作り手の思いが込められた場所です。

「わらび手」の記事

 

 


■2009(H21)年 37弦「あやはべる」モデル研究・開発をおこない完成(3オクターヴの音域をもつ学生用)

しいの木で作られた37弦「あやはべる」。

その他桑、伊集の木で制作しましたがモデルチェンジとなり現在は制作しておりません。

幻の3台となっています。

■2010(H22)年 工房の名を冠した39弦「てるる」スタンダードモデル完成。

楽器部門名を「てるる詩の木工房」と名付けて本格的に制作・販売をおこなう。


てるる詩の木工房のロゴ。

やんばるのヘゴの木の新芽を見ているうちに、自然の中にある渦巻には「内に向かう力」と「外に伸びゆく力」があることに気づきロゴを作成。(「二つの向きの違う渦巻」から生命が生まれるという伝承から、私たちの制作する竪琴も2つの渦巻を持っている。)沖縄では「マブイ(魂)は七つある」とのことで七つの渦巻を描いている。

 

「てるる」とは沖縄で地域の行事に歌われる神歌(感謝と祈りを捧げるうた)。

木の命をお預かりして楽器という新しい命に生まれ変わらせる仕事なので、単なる楽器ではなく「木が詩をうたう」楽器になってほしいとの思いで名付けた。

 

楽器工房は土地や自分の名前を付けているところが多い。「輝幸」から一字取り、自らが作る楽器に責任と誇りをもってお届けしたいという意味も込められている。


ケースは楽器の安心して帰ることのできるお家。楽器を収めるケースも工房で製作しています。

「ケース作り」の記事

■2011(H23)年 39弦「百音」アルトモデル研究・開発をおこなう。

自作弦巻き機で弦の研究をおこない完成。より深い表現やアンサンブルでの使用を目指した。


アルトライアーと作曲家杉本信夫先生

アルトライアーの形が完成しても、思ったような音が出るまでの道のりは遠かったです。

2007年の制作から再度挑戦。

機械も自家製、材料も限られる中で何十本となく弦を製作する作業を繰り返しました。音と音の間はこんなにも遠いのだろうかとため息が出そうでした。

そんな中、沖縄のわらべうた研究家・作曲家である杉本信夫先生が制作を励ましてくださいました。

「人が集まれば一緒に奏でたくなる。アンサンブルにアルトライアーは必要だ。」

「昔ピアノが楽器として完成されていなかった頃にベートーヴェンはいつかピアノはこの音が出せる日が来ると信じて当時のピアノで出すことのできなかった音の入った譜面を書いていた。楽器は奏者、作曲家、制作者が皆で進歩させてきた歴史がある。」

楽器制作の生みの苦しみは古来の人もたどってきた新しい楽器を作るための最前線だと思うと本当に感謝でした。

先生はてるる詩の木工房の楽器のためにアンサンブル曲を書いてくださり、楽器完成時にはお祝いをしてくださいました。

完成したアルトライアー

当時知人が撮影してくれた映像です。

これからも更にアルトライアーの研究を続けていきたいと思います。

アルトライアー「百音」が完成した時の記事

■2013(H25)年 10月アウリス社(スウェーデン)のシェル・アンダーソン氏来工房。「マイ・リトルライアー」製作ワークショップで沖縄を訪れていたシェル氏が、ワークショップ主催知花洋子さんのご紹介で工房を訪れました。工房の様々な木をコンコンたたいては喜ぶお姿がとても楽しそうでした。

■2014(H26)年 32弦・39弦「あやはべる」モデル研究・開発をおこなう。(初心者向け・普及版・ナチュラルカラーモデル)これまでのバイオリンのようなアーチトップ、摺り漆による仕上げの楽器から、より多くの方にライアー・竪琴に親しんでもらいたいと思い普及版制作に取り組みました。

■2016(H16)年 10月ドイツのライアー奏者スザンネ・ハインツ氏来沖。各地でコンサートやワークショップを開催されました。ライアーレッスンも受講。工房も訪れてくださり、ペンタトニックライアー「ことのは」を贈呈しました。

スザンネ・ハインツ氏の記事1

スザンネ・ハインツ氏の記事2

■2018(H30)年 3月スザンネ・ハインツ氏のご紹介でドイツにあるホルスト・ニーダー氏のザーレム工房に一週間滞在し、弦についてレクチャーを受けた。

スザンネ・ハインツ氏との再会。

ミュンヘンにあるご自宅を兼ねたレッスン室でライアーの

レッスンを受けました。

お庭には季節の花が咲き、お部屋の中には美しいものが飾られどこを見ても美しい音があふれ出てくる・・素敵な時間を過ごしました。

 

 

ザーレム工房ホルスト・ニーダー氏

牛小屋を改造して作ったという彼のライアー工房。

木の香りと木工機械の音が懐かしく、ドイツ滞在中一番リラックスできました。

弦の研修に行ったつもりでしたが、ほぼ語らいの時間となりました。(甘いものが大好きなニーダー氏はよく「パウゼ」(一休み)と言っておいしいケーキやアイスクリーム、フルーツでお茶と語らいの時間を楽しみました。)

楽器について、作ることについて、惑星と植物の話や、木について、彼の家族についてなどつたない英語やスケッチブックに絵をかいて会話し、ドイツ語が話せないことがこれほど残念に思ったことはないです。

彼は「世界に現在12のライアー工房があるが、あなたたちは13番目の工房だ」と祝福してくれました。

ドイツ研修記の記事はこちら

工房を旅立つ朝、ニーダー氏、奥様と共に。

■2019(R1)年 

■3月 イギリスのライアー奏者ジョン・ビリング氏がコンサートのために来沖。

幾つものコンサートで大忙しの合間に、工房を訪れてくださいました。

コンサートでは沖縄の曲も演奏され、時々日本語でジョークも。とても人間味あふれるジョン・ビリング氏でした。

■4月 9弦「あやはべる」ペンタトニックモデル研究・開発、販売を始める。

より多くの方に、初めてライアーに触れる方に、竪琴の音色を楽しんでいただきたい。

 小さいながらも大きな楽器と変わらず丁寧に制作しています。

 

■10月 弦巻き機「夢織り機1号」が完成する。以降てるる詩の木工房の制作する楽器にはオリジナル弦を製作、弦張りを行っている。

ドイツから帰り、2年間夜な夜な製作を続けやっと完成した弦巻き機。モーター以外は手作りです。

弦巻き機は10月31日の夜遅くに完成し、弦第一号を作ることができました。

弦巻き機完成の記事

 

 

■2020(R2)年 

■3月 ライアー奏者ジョンビリング氏2度目の来沖。コンサートの際にてるる詩の木工房の楽器も紹介し、実際に弾いていただいた。

コンサート後に工房を訪ねてくださったジョンさん。皆でピザパーティーを楽しみました。日本でのジョンさんのサポートをされているハープ奏者の夏本道子さんと。


■4月 コロナ感染症によるロックダウン。世界中が止まってしまったような中で私たちにできることを考えた。幸い健康に恵まれ工房では竪琴を作り続けることができ、同時にホームページのリニューアル、オンラインショップの開設、SNSの開始とデジタルで世界とつながる道を模索した。音楽に力があることを信じて。


コロナ下で自宅にいることが多かった子どもたちの助けを借りてSNSを立ち上げました。なかなか厳しいダメ出しや「この前教えたでしょ!」と言われることも多々ありました。

が、おかげで遠く離れた全国の皆様と繋がることができるようになり感謝です!

■2021(R3)年 工房のレイアウトを大幅に変え、楽器工房として整備する。


「自然光の入る作業机にしたい」とずっと願ってきました。ある時窓をふさいでいた機械や板を取り除くと、それから掃除が止まらなくなって、決意を込めて楽器工房仕様に全て替えました。楽器の大切な曲線や細かな箇所がよくわかり、集中できるスペースが完成しました。

■2022(R4)年 

■1月 工房設立20周年を迎える。

竪琴と初めて出会い、作り始めてからも20年の節目の年となりました。

皆様のおかげで楽器制作を生業とできることに感謝申し上げます。

楽器を愛して下さっている方からお手紙やご感想をいただくことが何よりも嬉しく励みになります。

ありがとうございます。

 

 


■11月 八ヶ岳で行われたコンサートに参加。ライアー奏者のジョン・ビリング氏、小倉さちこ氏と共に。


■2023(R5)年 10月 火事で焼失してしまった首里城復元扁額木地製作のために作業場新設。2Fは楽器展示室・スタジオとして準備中。長男麦入社。スタッフとして加わる。

■2024(R6)年 

■6月 弦楽器に関する特許を取得。

■9月「てるる詩の木工房」社名・ロゴを商標登録取得。