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沖縄の木は楽器に向かない!?

沖縄の木は楽器に向かないのでは?

よくそういった質問を受けます。

 

「沖縄の木は柔らかい」

「湿度が高くて楽器作りに適していない」

 

・・・

本当にそうなのでしょうか?

 

ギターを例にとります。

ネック・・・マホガニー(ホンジュラス・フィリピン)

指板・・・ブラックエボニー(アフリカ)

胴・裏板・・・ブラジリアンローズウッド・インディアンローズウッド(アマゾン流域・インド)

表面板・・・スプルース(ヨーロッパ・カナダ)

 

なんとスプルース以外はいずれも赤道近くの南方系の木です。

同じ樹種であれば南にいくほど、樹質が固くなることを経験的に感じています。

例えば同じ杉でも東北のものは柔らかく、九州のものはコシがでてきます。

 

 

 

 

さらにヨーロッパにおいては太陽の輝く南への憧れと、

珍しいものを手に入れることのできる富と権力の象徴の意味もあります。

コロンブスの時代にはパイナップルが王侯貴族の憧れの的でした。

楽器にも音についての影響もさることながら

希少材を粋を凝らして使った歴史があることと思われます。

 

 

私が思うに木も市場の原理で流通されています。

たくさん産出される木、利益の出る木、希少価値を付けた木、

判断する人はコマーシャルによって心を動かされます。

同じ産地、樹種でも個体差があります。

 

 一口にローズウッドといってもすべてが楽器作りに適しているわけではないのです。

上質なものから三級品まで様々です。

 

自分の目や耳で良し悪しを見抜ける人はそう多くないでしょう。

 

 

ちなみに現在弦楽器の響板用スプルースの中で最高ランクの評価を受けているのは、

カナダとアラスカの国境近くに生育するルッツスプルースで、

シトカスプルースとイングルマンスプルースの交配種といわれています。

てるる詩の木工房でも機種によっては表面板にスプルースを使うことがありますが、

シトカスプルースの目の詰まった良材を使用しています。

購入の際には目で確かめ、材を打って音を確かめることが欠かせません。

 

 

 

 湿度の問題については、

外気の湿度と木の含水率とを分けて考える必要があります。

確かに沖縄県の温度・湿度は高いですが

そのことと木材の含水率は全く別の問題です。

 

木材には自由水と結合水が含有されています。

自由水は洗濯物が乾くように、木から蒸発していく水分、

雨の日にはまた木に戻ってくる水分です。

それに対して結合水は木の細胞内にとどまり、樹脂と結合している水分です。

木材の自由水は比較的早く抜け、変動の多い水分ですが、

細胞内の結合水は安定した水分です。

時間が経つと自由水の割合が減り、結合水の割合が多くなります。

そして含水率が20%台になると木の動きが落ち着くようです。

 

「一寸一年」と昔の人はよく言ったもので

大きな材の乾燥には一寸(約3cm)に一年かかる、という意味です。

私たちは最低でも8年間は自然乾燥ののちに加工しますが

それでも時々大きな材からは水分が残っているのを感じる時があります。

(そんな時はさらに乾燥を続けます。)

 

含水率が10%台になるまでは楽器への加工は難しいです。

木が動くとき、たとえ3mm厚の板であっても

それを人の力でねじ伏せる、ということはできません。

木の中には成長の過程で生まれた応力を秘めており

「木は成りたいように成る」のです。

逆にその木に寄り添い、性質を生かしてあげると

 

 

十二分に力を発揮してくれます。

 

人工乾燥機で木材の含水率を急に落としたとしても、

外気の湿度を急激に吸い込んで木が膨れてしまうことがあります。

床板がアルミサッシを押し出したり、杉の壁板が膨らんだりした例を

実際に見たことがあります。

急いで工事を終わらせようとした結果なのでしょう。

また径の小さい、若い木材もよく暴れます。

(ちょっと人間と似ているかもしれません)

 

木を伐採する時期も関係があります。

木が葉を落として眠りについている初冬、

そして木の水分が根にある新月のころ切った木が最も適しています。

九州の大分で竹細工をする方も竹を切る時期について同様の話をされていました。

逆に最悪なのは木が大地から水分を吸い上げる春や夏に切った木です。

 

材だけ求めた場合にはこういったことは全く分かりません。

そこで時期を選んで丸太で購入し、年月をかけて乾燥させることを40年続けています。

板一枚一枚に年号を書き入れ、重たい材を積みなおす作業は

決して楽ではありません。

けれども材料に寄り添う喜びのほうが大きいのです。

 

 沖縄の木だから、という理由だけで使っているわけではありません。

これまで楽器用材をたくさん見てきた中で、

私たちは沖縄の木の可能性を信じています。

南の島の森は、生物の種類が多く、その代わり個体数が少ないのです。

海の生き物も同様だそうです。

北方の海では種類は少なく、大きな群れで生活しています。

南の生き物は個性豊かで多様性を持っていると思います。

 

木についても沖縄の木は全国的な市場に出回るほど量がありませんが

ひとつひとつに特徴があり、個性豊かで、貴重な銘木です。

私たちはその中から楽器に適した木をさらに選び出し、

時間をかけて楽器に育てて行きます。

 

てるる詩の木工房で使っている桑についても少しお話します。

神代の時代にスサノヲは

「社は檜、船は杉か楠、棺桶は槙」で作るべし、といったそうです。

これは現代でも生きています。

そして古事記や日本書紀よりも古いとされているホツマツタエによれば、

「琴は桑で作る」との記述があります。

桑には邪を払い、清めて、守る力があると信じられていました。

今でも雷除けの呪文は「くわばら、くわばら」、

沖縄でも「くわぎぬしちゃでーびる」(桑の木の下です)と言います。

その他桑についての話は尽きませんが、またいつか項を改めて…

 

伝説もさることながら実際に楽器となった時の音の美しさ!

それはほかの木にはないものでした。

てるる詩の木工房では、しいの木、伊集といった他の材を使うときにも

弦の直接触れる部分には桑の木を使用しています。

パッと見た目には気づくことはないかもしれませんが

楽器にとって主要な部分に桑の木を使っていることも

私たちのつくる楽器の大きな特徴の一つなのです。