左側の大きな竪琴(ライアー)は
てるる詩の木工房で初めて作った大型ライアー、ソプラノ41弦。
右側は出来立てほやほやのペンタトニックライアー、あやはべる9弦。
どちらも同じ一本の木から作られている。
この木で作るのは実に16年ぶり!
この木は道路のバイパス工事の際に伐採された木だ。
岩の上に生えていたと聞いている。
製材してみて驚いたのはメイプルの波杢のような美しい杢が表れていたこと。
なんて美しい木だろうと惚れ惚れした。
木には杢と木目がある。
木目とは年輪が表す木の模様。
対して杢とは木の内側からにじみ出る光のような様、
どのように木が生きてきたかが表れている。
この木に出会ったときに、そのことが腑に落ちた。
この柿の木を購入した時期はとても大変な時期だった。
私自身は二人目の子どもを妊娠中突然の破水で6か月に及ぶ入院、
幼い長男と夫は実家から保育園と職場へ。
無事に長女が誕生したときは本当に命の尊さを感じた。
私には告げられていなかったが、無事に出産できるかわからない状態だったという。
ほっとしたのもつかの間、
今度は夫がそれまで勤めていた大学の方針が変わり、任期が終了。
退職を余儀なくされた。
幼い二人の子ども、職を失い、今後どうするべきか悩んだが
出した答えはやはり木工を生業としていきたい!ということだった。
手探りで工房を作る準備を進め、壁にぶち当たっては立ち止まったり引き返したり・・・
を繰り返しながら2002年1月に工房設立。
当初は楽器工房ではなく、注文家具工房としてのスタートだった。
設立したものの、なかなか仕事が伸び悩み、また、法外な工事代金を請求されて悩んでいた。
そんな時だっただけにこの木の美しさが沁みた。
崖の上の岩に深く根を張り、光を仰ぎ、
時には風にそよぎ、鳥や虫たちと遊び、時には暴風に折れそうになるほど揺られ、
木の生きてきた年月が内側で光となって輝いていることを感じた。
同じ柿の木でも里の木と、全く違っていたのだ。
先ほどの話には続きがある。
工事代金を請求されて悩んでいた年の暮れに
偶然見つけた竪琴のコンサートの案内。
気分転換にちょっと行ってみようか、と軽い気持ちで参加したところ
その音色に魅了され、ギターに憧れて木工を始めた夫は
子供のころ竪琴を作ってみたいと思っていたことを思い出した。
それが竪琴との初めての出会い。
工房を始めた年に奇しくも竪琴との出会いがあったのだ。
もし、仕事が順調で、法外な工事代金の請求がなければ
このコンサートに行っていただろうか?竪琴を作っていただろうか?
そう考えると請求に来た彼は天使だ!と夫は笑う。